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私たちは語り合わなければならない

 

 安倍政権は同じ言葉を叫びながら、暗い一本道をひた走っている。2013年に「特定秘密保護法」を、2015年に「安保関連法」を、そして、2017年の今年、新しく「共謀罪」を成立させたとき、彼らは同じ言葉を叫んでいた。これは「国民の安全のために」必要だ、と。

 しかし、「特定秘密保護法」に対しては、それが市民の知る権利を侵害し、メディアの自由な活動を委縮させることにつながるという意見があった。「安保関連法」に対しては、それが憲法に違反しているばかりか、むしろ戦争に巻き込まれるリスクを増大させるという意見があった。そして「共謀罪」に対しては、それが思想や表現の自由を脅かし、国家による市民への監視を強化させかねないという意見がある。

 しかし、安倍政権は、これらの意見に決して耳を傾けようとしてこなかった。そればかりか、審議のプロセスで法の問題点が指摘されると、安倍首相を筆頭に政権側の政治家は、「はぐらかし」や「逆切れ」、人格攻撃といった愚弄的で、独善的な態度で応じるばかりであった。

 安倍首相が、「腹心の友」への利益誘導をはかるために、行政の長でありながら、行政の公正さを歪めていた疑いが強くなっている加計学園問題においても、彼らの対応は、やはり愚弄的で独善的なものであった。彼らには自分たちの言葉以外には、どのような言葉も存在していない。安倍政権は耳を塞いだままで、走り続けている。

 

 その道はどこに向かう道なのか。彼らが立て続けに成立を強行した法の内容と、その強引な決定プロセスが示しているのは「戦争可能な全体主義国家」に他ならない。それは杞憂ではなく、まったく合理的な予想である。

 安保関連法がある限り、日本は「合法的」に、自国の防衛という理由以外で自衛隊を海外に派遣し、戦争を始められる。人を「合法的」に“殺す”ことができる。

 また、特定秘密保護法がある限り、政権が秘密裏に戦争を始めるための準備をしているとき、それを暴こうとすれば、それは犯罪となりうる。海外で自衛隊が戦闘状態に入ったとしても、それを政権が「特定秘密」と指定すれば、それを市民が知ろうとすること自体が犯罪となりうる。

 そして、「共謀罪法」がある限り、ある行為が犯罪であるかどうかは、その客観的な性質ではなく、むしろ国家権力の見方如何によって、決定される。「共謀罪法」の下で、私たちは国家と一体化してしまわない限り、日常的に国家の意向を恐れながら意識することを余儀なくされる。

 これまで安倍政権に対して、いくつもの批判の言葉が向けられてきた。かつての「戦争を行った全体主義国家」は、日本人に対して、そしてアジアをはじめとする他国の人たちに対して、ときに致命的な暴力を振るった。取り返しのつかない暴力の、その歴史が、今、繰り返されようとしている。「戦争を行った全体主義国家」に、今、戻りつつある。だからこそ批判の声が上がっている。しかし、安倍政権はこれらの批判にも開かれてない。彼らには自分たちが見たいと考える歴史以外に歴史は存在していない。安倍政権は、耳だけでなく、目もまた塞いでいる。しかし、同じ言葉を叫ぶ口だけは塞がない。

 安倍政権は、ただ自らに同調し、忖度する「仲間たち」のみで政治を遂行していく独断的な権力者集団である。そうである限り、私たちはもはや彼らに向かって語る言葉をもってはいない。彼らにとって、私たちの言葉は雑音に過ぎない。

 

 安倍首相が首相である限り、社会は内側から壊れていくだろう。国会で彼が独善的で高圧的な態度をとり続けていることは周知の事実である。それでも、その政権に対する支持率は一定程度、維持されている。その態度を看過して支持する者がおり、その態度に声援を送る支持者さえいる。このことは、そうした態度を権力者に許される態度として容認する人々がいることを意味する。だとすれば、私たちは予想せざるをえない。〈アベ的なるもの〉が社会のいたるところで広がっていく未来を。「戦争可能な全体主義国家」を内側から用意するであろう、〈アベ的なるもの〉が社会を席巻する未来を。そのとき私たちの社会からは良心に基づく言葉が消えていくだろう。

 

 だから時が来ている。安倍政権について、私たちの間で、互いに敬意をもつ私たち市民の間で、より深く、より広く、より民主的に語り合うべき時が。

 語り合わなければならないことは無数にある。安倍政権が提示する政策や国家戦略について、それが私たちの社会をどのようなものに変えていくのか。彼らが政策立案のための根拠としているデータについて、それが私たちの社会の現実を正しく捉えているのかどうか。彼らの「思想」について、それが世界の中で、また近隣諸国において、どのような意味を持つのか。〈アベ的なるもの〉が社会を飲み込んでしまう前に、私たちは語り合うべきである。

 とくに被災三県の大学に所属する私たち教員有志は、先の復興大臣の度重なる「失言」にみられるように、東北を軽視し復興をないがしろにするような安倍政権の姿勢が、被災地の人々になにをもたらすのかを考えないわけにはいかない。私たちは語り合わなければならない。

 

 耳と目を塞いだまま、同じ言葉を叫びながら、暗い一本道を走り続けている安倍政権の〈暴走〉は、彼らに向けて語り掛けることでは、もはや止めることができない。

 その〈暴走〉を止めることができるとしたら、それは彼らを恐れさせた時だけだ。彼らについて語り合う中で、〈アベ的なるもの〉を拒否する意志を結集させたときだけだ。彼らが私たちの意志に恐れ、同じ言葉の繰り返しをやめ、耳と目を開いたときだけだ。

 2013年、2015年、2017年の三度にわたり、敗北をしてきた私たちは、今、私たちの中で、彼らについて、そして彼らが進んでいるのとは別の道について語り合わなければならない。

2017年6月20日

 

 ブックカフェで語り合う市民の会

 安保関連法に反対する被災三県大学教員有志の会

呼びかけ人一覧(あいうえお順)

秋永雄一(東北大学名誉教授)

阿久津洋巳(岩手大学教授)

荒武賢一朗(東北大学准教授)

池田成一(岩手大学教授)

石川真作(東北学院大学准教授)

伊藤宏之(福島大学名誉教授)

井上博夫(岩手大学名誉教授)

上村静(尚絅学院大学教授)

内田龍史(尚絅学院大学准教授)

海野道郎(東北大学名誉教授)

遠藤寿一(岩手医科大学准教授)

大内秀明(東北大学名誉教授)

大迫章史(仙台白百合女子大学准教授)

大平聡(宮城学院女子大学教授)

越智洋三(東北学院大学名誉教授)

郭基煥(東北学院大学教授)

春日菜穂美(盛岡大学教授)

川端浩平(福島大学准教授)

菊池哲彦(尚絅学院大学准教授)

菊池勇夫(宮城学院女子大学教授)

菊池慶子(東北学院大学教授)

菊地登志子(東北学院大学教授)

北川誠一(東北大学名誉教授)

木村邦博(東北大学教授)

木村敏明(東北大学教授)

熊沢由美(東北学院大学准教授)

黒坂愛衣(東北学院大学准教授)

黒田秀治(東北学院大学准教授)

後藤康夫(福島大学教授)

後藤宣代(奥羽大学非常勤講師)

小林一穂(東北大学教授)

小林睦(東北学院大学教授)

小松丈晃(東北大学准教授)

小宮友根(東北学院大学准教授)

境田清隆(東北大学教授)

酒井朋子(東北学院大学准教授)

坂田勝彦(東日本国際大学准教授)

佐久間政広(東北学院大学教授)

座小田豊(東北大学総長特命教授)

佐々木俊三(東北学院大学名誉教授)

佐藤英世(東北学院大学教授)

佐藤滋(東北学院大学准教授)

佐藤利明(石巻専修大学教授)

佐藤直由(東北文化学園大学教授)

佐藤嘉倫(東北大学教授)

三條秀夫(東北学院大学准教授)

信太光郎(東北学院大学准教授)

清水修二(福島大学名誉教授)

下夷美幸(東北大学教授)

末永恵子(福島県立医科大学講師)

杉山弘子(尚絅学院大学教授)

鈴木努(東北学院大学准教授)

高木竜輔(いわき明星大学准教授)

高倉浩樹(東北大学教授)

高瀬雅男(福島大学名誉教授)

高橋直彦(東北学院大学教授)

高橋満(東北大学教授)

武井隆明(岩手大学教授)

竹井英文(東北学院大学講師)

田中史郎(宮城学院女子大学教授)

津上誠(東北学院大学教授)

土屋明広(岩手大学准教授)

徳川直人(東北大学准教授)

永井彰(東北大学教授)

中川学(東北大学講師)

永田英明(東北大学准教授)

永吉希久子(東北大学准教授)

野家啓一(東北大学総長特命教授)

野崎明(東北学院大学名誉教授)

長谷川公一(東北大学教授)

羽田さゆり(東北学院大学講師)

浜田宏(東北大学准教授)

原塑(東北大学准教授)

半田正樹(東北学院大学教授)

坂内昌徳(東北学院大学准教授)

東義也(尚絅学院大学教授)

比屋根哲(岩手大学教授)

藤野美都子(福島県立医科大学教授)

冬木勝仁(東北大学教授)

細谷昻(東北大学名誉教授)

堀裕(東北大学准教授)

槇石多希子(仙台白百合女子大学教授)

松前もゆる(盛岡大学准教授)

三須田善暢(岩手県立大学准教授)

宮本直規(東北学院大学講師)

麦倉哲(岩手大学教授)

森美智子(東北学院大学教授)

門間俊明(東北学院大学講師)

柳原敏昭(東北大学教授)

安田勉(尚絅学院大学教授)

山崎冬太(東北学院大学准教授)

横山英信(岩手大学教授)

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